将棋の神様 !? 成績上位者4人の直接対決 ~ 順位戦について考えた日(2018年度順位戦C級1組)

9局目に上位4人が直接対決

順位戦 ―「名人位」への道

将棋順位戦は、フリークラス所属棋士を除く全棋士が、5つのクラスのどこかに在籍ざいせきし、1年かけてリーグ戦を行うものである。

5つのクラスは、ピラミッド構造になっていて、プロ入り後は、一番下の「C級2組」に在籍する。

その後、「C級1組」⇒「B級2組」⇒「B級1組」⇒「A級」という具合に、在籍したリーグ戦の成績によって昇級しょうきゅうしていく。(当然、成績によっては、「降級こうきゅう」もある)

そして、一番上位のA級順位戦を勝ち抜いた棋士が、ときの名人に挑戦する名人戦7番勝負を戦い、その勝者が「名人」=「名人位」タイトルホルダーとなる。

C級2組からスタートし、毎年昇級を続け、A級1年目で優勝した場合でも、5年後の4月にやっと「名人」に挑戦できるシステムだ。

藤井七段と順位戦

2019年2月5日、順位戦C級1組で、藤井聡太そうた七段近藤誠也せいや五段と対局した。

藤井七段は、前期在籍していた順位戦C級2組で10戦全勝、上位3人が昇級できるわくの中に入り、在籍1期(1年)で、今在籍している順位戦C級1組への昇級を果たしている。

そして、今期在籍している順位戦C級1組でも8連勝中であった。

2月5日までの成績上位者は

C級1組から1つ上のクラスであるB級2組への「昇級枠」は2人

2月5日の対局が始まるまでの成績上位者は以下の通り。

1位 杉本すぎもと昌隆まさたか七段 8勝 今期C級1組順位7位
2位 藤井ふじい聡太そうた七段 8勝 今期C級1組順位31位
3位 近藤こんどう誠也せいや五段 7勝1敗 今期C級1組順位6位
4位 船江ふなえ恒平こうへい六段 7勝1敗 今期C級1組順位14位
5位 阿部あべ健治郎けんじろう七段 7勝2敗 今期C級1組順位8位
6位 高崎たかざき一生いっせい六段 6勝2敗 今期C級1組順位4位
7位 青嶋あおしま未来みらい五段 6勝2敗 今期C級1組順位11位

上位4人が直接対決

順位戦の対戦相手は、あらかじめ4月に抽選で決められている。(同時に、先手、後手も決められる)

ところが、2月5日の対局は、杉本七段対船江六段、藤井七段対近藤五段という、上位4人の直接対決となった。

この4人の組み合わせが、たまたま9局目に組まれていて、しかも、この4人が好成績でここまで戦ってきたから、こういうドラマチックな展開になったのだが、わたしは「将棋の神様って、いるかも?」とふと思った。

直接対決の結果しだいでは

この日の対局(4人とも9局目)で、杉本七段と、杉本七段の弟子の藤井七段が勝つと、次のようなことになっていた。

・ 2人とも、最終10局目の勝敗に関係なく、B級2組への昇級決定

・ 順位戦のデビュー以来の連勝記録である中原誠なかはらまこと十六世名人の持つ18連勝を、藤井七段が52年ぶりに更新し、19連勝の新記録樹立

・ 師弟そろっての昇級。
故大内延介のぶゆき九段・塚田泰明六段(段位はいずれも当時)が師弟でB級1組への昇級を決めた第45期順位戦(1986年度)以来、32年ぶりの師弟同時昇級

昇級の可能性はとうとう5人に

2月5日の対局の結果は

将棋ファンもマスコミも注目していた対局結果は、さきほどの「たられば」の話とは逆になり、近藤五段船江六段が勝った。

杉本七段は、勝てば昇級決定だっただけに残念だっただろう。

また、負けると昇級の可能性がなくなるところだった船江六段もよくふんばったと思う。

2月5日の対局の結果、C級1組の成績上位者で、昇級枠2人に入る可能性があるのは下の5人にしぼられた。

1位 近藤誠也五段 8勝1敗 今期C級1組順位6位
2位 杉本昌隆七段 8勝1敗 今期C級1組順位7位
3位 船江恒平六段 8勝1敗 今期C級1組順位14位
4位 藤井聡太七段 8勝1敗 今期C級1組順位31位
5位 高崎一生六段 7勝2敗 今期C級1組順位4位

順位戦で1敗することの重さ

順位戦C級1組の一斉対局は、次回が最終局で、3月5日に行われる。

昇級の可能性のある5人の直接対決はなく、それぞれ違う相手と対局する。

対局後の結果が同率なら、今期の順位が上の方から2人昇級する。

それが順位戦である。

同率者によるプレーオフ制度(順位下位からの勝ち抜き戦方式の変則トーナメント)があるのは、A級だけだ。

昇級の可能性が、2番手から4番手になった16才の藤井七段。

順位が下位(今期昇級したばかり)だけに、順位戦で1敗することの重みを感じていることだろうが、気持ちを切り替えて、次の対局に臨んでほしい。

若いんだから、すぐに切り替わるだろう。

近藤五段と順位戦

一躍、昇級候補一番手に躍り出た近藤五段

近藤五段も1996年7月25日生まれの22才と若い。

プロ入り後、C級2組に1期在籍後、すぐにC級1組に昇級

そして、C級1組昇級直後の昨年度は、9局目に7勝1敗同士の直接対決に敗れたが、その後、最終局を勝ったことで8勝2敗で順位戦を終えた。

順位戦は、前期の成績順に、今期の順位を決める。

だから、この8勝2敗という成績が、今期C級1組6位にランクされていることにつながっている。

気が抜けない厳しさ

もし、近藤五段が、前期の最終局で負け、7勝3敗であれば、今期は、もっと下の順位にランクされていたことだろう。

「前期の対局の1つの勝ちや1つの負けが、今期の順位に反映される」。

プロだから当たり前だが、1局たりとも気が抜けない厳しさが順位戦にはある。

来期を見すえた好勝負を

近藤五段は、順位戦の通算成績が25勝4敗で、順位戦にめっぽう強い

「順位戦=持ち時間各6時間」が、近藤五段に合っているのかもしれないが、強い理由は、本人以外にはわからないことだろう。

さて、すべての棋士が、それこそ来期を見すえて、真剣に勝負にいど最終局

将棋の神様もじっと見守る中、人間同士がどんな好勝負を繰り広げ、「誰と誰が昇級への切符を手にするのか」、今からとても楽しみである。