将棋 / 渡辺明2冠、名人位を獲得 ~ 実力制第15代名人誕生(2020年第78期名人戦)
実力制第15代名人誕生
2020年8月15日、午後5時38分、それは突然訪れた。
豊島将之名人が駒台に右手を置き、静かに頭を下げ、負けを告げた。
第78期将棋名人戦7番勝負第6局の終局である。
持ち時間各9時間のうち、挑戦者の渡辺明2冠(棋王・王将)の残り時間1時間53分、豊島名人の残り時間50分での終局であった。
この結果、今期名人戦7番勝負は、渡辺明2冠の4勝2敗で決着。
挑戦者の渡辺明2冠が新名人となった。
名人位が実力制に移行してから15人目の名人=実力制第15代名人の誕生である。
永世竜王の資格保持者
渡辺2冠といえば、竜王戦での活躍を思い浮かべる将棋ファンが多いと思う。
2004年、渡辺2冠(当時20才、五段)は、在籍していた竜王戦4組で優勝。
竜王戦本戦トーナメント、挑戦者決定3番勝負(2勝先勝)もすべて勝ち、第17期竜王戦の挑戦者となる。(規定で六段昇段)
そして、竜王戦7番勝負では、当時の森内俊之竜王を4勝3敗で破り、見事、初挑戦で竜王位を獲得した。
その後の竜王戦での活躍はめざましく、竜王戦は、タイトル戦出場13回で、連続9期を含む通算11期の竜王位獲得、永世竜王の資格も取得している。
※ なお、2020年8月現在で、永世竜王の資格を持っているのは、渡辺2冠と羽生善治九段の2人で、渡辺2冠が先に資格を取得している。2008年、2人は、「永世竜王の資格」<渡辺竜王(当時)は連続5期獲得、挑戦者の羽生名人(当時)は通算7期獲得>をかけて7番勝負を戦い、3連敗の後、4連勝した渡辺竜王が初めて永世竜王の資格を取得した。この7番勝負での3連敗4連勝もタイトル戦史上初の出来事だった。
名人には縁がない?
本局終局後のインタビューでは、「自分には、(名人というタイトルに)縁がないと思っていたので、実感がわかない」という感想を述べていた渡辺新名人。
2017年度のA級順位戦では、A級3位で4勝6敗の成績だったが、降級者3人枠に入ってしまいB級1組に降級するという経験もした。
しかし、ここ2年間の順位戦での巻き返しは見事だった。
2018年度のB級1組順位戦を12戦全勝で終え、1年でA級に復帰。
2019年度のA級順位戦も9戦全勝で、初の名人位挑戦を決め、そして今回の名人位獲得へとつなげた。
タイトル戦の常連で、防衛戦には、めっぽう強い渡辺新名人。
年明けに予定されている王将戦、棋王戦に加え、今度は名人戦という舞台で、どんな渡辺将棋を見せてくれるのか、今からとても楽しみである。
※ 渡辺新名人は、史上4人目の中学生棋士(加藤一二三九段、谷川浩司九段、羽生九段の次)である。前の3人は、全員名人位を獲得している。今期、名人位初挑戦だった渡辺新名人も名人位を獲得、その仲間入り?をした。
過密日程が続くが・・・
一方、敗れた豊島名人は、終局後のインタビューで、「さえない内容の将棋が多かった。全体的に押されていた」と今期名人戦の内容を振り返った。
渡辺2冠(新名人)との対局については、「(自分が)考えていない手を指されて、勉強になった」と述べた。
また、過密日程の影響についての質問には、「(他の対局者も)同じ条件で指している。実力不足。よい経験ができたので、それを今後に生かしていきたい」と述べた。
新型ウイルス感染症の影響で予定されていた対局が延期となり、今期のように、同時期に、同じような顔ぶれでタイトル戦を戦っている(それは、強さゆえに起こることかもしれない)状況は、見ていて本当に大変だろうなあと思う。
豊島名人は、名人位の防衛ができなかったことで、保持しているタイトルは竜王位のみとなった。(竜王位を持っていること自体すごいことだが・・・)
勝つことでますます忙しくなるのが将棋界だが、豊島竜王が永瀬拓矢叡王に挑戦している第5期叡王戦も佳境を迎えている。
また、その後は、竜王戦が待っている。(現在、羽生九段と丸山忠久九段との間で挑戦者決定3番勝負が進行中)
今回の名人戦を貴重な経験とし、さらにキャリアアップした豊島竜王の将棋を今後も見守っていきたいと思う。
※ 渡辺明 新名人 略歴
1984年4月23日生まれ、36歳。
1994年6級で奨励会入り。
2000年4月1日四段(プロデビュー)。
2003年4月1日五段、2004年10月1日六段、2005年10月1日七段、2005年11月17日八段、2005年11月30日九段に昇段。
竜王戦は1組、順位戦はA級に所属。
今年度の成績は8勝6敗。(未放映のテレビ対局を除く)
~ タイトル獲得履歴 ~ 通算26期
○ 竜王11期・・・永世竜王(就位は原則引退後)
○ 名人1期
○ 王座1期
○ 棋王8期・・・永世棋王(就位は原則引退後)
○ 王将4期
○ 棋聖1期
~ 名人戦・順位戦所属クラス ~
2000年度C級2組 初参加
2003年度C級1組
2006年度B級2組 10戦全勝
2007年度B級1組
2010年度A級
2014年度A級(プレーオフで敗退)
2018年度B級1組 12戦全勝
2019年度A級 9戦全勝 挑戦者へ
2020年 名人位獲得
※ 参考資料・・・(公社)日本将棋連盟「棋士データベース」より。年齢・成績・所属・タイトル獲得履歴は、2020年8月17日現在。
※ 将棋界タイトルホルダー