星のきれいな島で【8】青春“最終章”その1 「何をお願いされましたか?」(ボクとボクらの話)
4年前、次回で「青春」は最終回と書きました。
しかし、最終回で紹介したいエピソードがあまりにも多く、また、それをまとめる力量もないので、「最終章」とし、小分けにして話をさせてください。
どうぞ、お付き合いください。
若者むけの神社へ
わたしたちは、年末に約束していた通り、お正月に初詣に出かけた。
わたしは、待ち合わせ場所である彼の家へ行き、その後、二人でバス停まで歩いた。
そして、わたしが知っている神社へ行くバスに乗り込んだ。
その神社は、場所は少し遠いが、すぐそばに遊園地がある若者むけの神社だった。
神社へ着くと、案の定、若者で込み合っていた。
神社の入り口に放送関係の人がいたのが気になったが、大人数の列の中を少しずつ前へ進み、お参りをすませた。
「彼女できたの?」
帰り道、神社の境内を過ぎようとしたとき、彼が声をかけられた。
さっきの放送関係の人だった。
書類を挟むバインダーを後ろ手に持ち、お化粧をした若い女性が、彼の苗字を親しそうに「ちゃん」付けで呼んでこう尋ねた。
「彼女?」
彼がうなずくと、
「うわぁ! すごいじゃない!」
びっくりしたように女性が言った。
彼とその女性との関係がわからず、彼の横にかくれるように立っていたわたしは、女性の方をちらりと見た。
女性が言った。
「あらまっ、かわいい」
そう言われて、わたしは、自分でも顔が赤くなるのがわかった。
女性は独り言のように続けて言った。
「へえー。彼女なんだぁ。いいなあ。・・・あのね、彼ね、いい人! おとなしいでしょう。でもね、すっごくしっかり者! 一緒に局でバイトしているときもね・・・」
その女性が次の言葉を言う前に、彼がその言葉をさえぎるように言った。
「先輩、今日は、ここですか?」
「そう、お正月早々から、ここで仕事。インタビュー。そういえば、あなたたちにもインタビューしてあげようか」
彼が大げさに手を振って「ダメ」の意思表示をしたので、彼が先輩と呼んだ女性は、わたしの方へマイクをむけ、さっきとはまるで違うていねいな言い方でこう言った。
「今日は、何をお願いされましたか?」
願い事が叶わない?
わたしは、小さな声で
「すみません」
と言って、女性に頭を下げた。
「そうだよね。彼のことなんか、人前では言えないもんね」
その言葉を聞いてドキッとした。
その女性が言う通り、彼のことをお願いしたからだ。
「なんで、わかったんだろう?」と不思議に思っていると、彼がわたしに向かって「せっかくだから、教えてあげればいいのに」と言った。
その言葉には、女性が答えた。
「何をお願いしたか、他人に話すと、願い事が叶わなくなるっていうもんね。そうでしょう。わたしのようなお姉さんには、わかるんだから!」
わたしが黙っていると、女性は彼にむかって言った。
「それくらいわかってあげなくっちゃ。ほんと、かわいいよねえ」
「あーあ、だから、この仕事いやなんですよぉ」
と女性がため息をつきながら、今度は、後ろにいるスタッフ(らしき人)を見ながら言った。
「協力できなくて、すみません。先輩、またいつか穴埋めします。じゃあ」
彼が、間を取り持つように言った。
そして、頭をペコンと下げると、神社の外へ向かって歩きだした。
わたしは、あわてて、彼が着ているトレーナーの袖をつかみ、後をついて行った。
振り返ると、女性が、わたしにむかって、にっこり笑いながら手を振った。
わたしは、軽く頭を下げ、愛想笑いをしながら手を振り返した。
「目がそっくり・・・」
手を振っている二人の様子を交互に見ていた彼のつぶやきが聞こえたが、聞こえないふりをして、彼に言った。
「きれいな人だね」
わたしに気をつかったのか、彼がさっきと言い方を変えてつぶやいた。
「そっくり・・・」
卒業まで、あと3カ月。
「わたしたち、これからどうなるんだろう?」
そのとき、ふと、そう思った。
※ この物語は、フィクションです。
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