星のきれいな島で【9】青春“最終章”その2 「遊園地でのできごと」(ボクとボクらの話)

遊園地までの道

神社を出たわたしたちは、遊園地へ向かった。

遊園地は、神社から歩いて5分ほどの所にあり、広い駐車場があった。

遊園地の駐車場の横の歩道を歩きながら、彼が言った。

「一緒にいられるといいなあ、って」

 

わたしが、「ん?」と言うと、彼が「願い事」と言った。

「さっき、他人に言うと、願い事がかなわないって言われたばかりなのに・・・」とわたしは思ったが、その言葉を聞いて何だかホッとした。

 

「あっ! 教えたらいけないんだった」

彼があわてて取り消そうとしたのがわかったが、わたしは、わざと言った。

「もう一緒にいられなくなるかもしれないよ! どうしてくれるの!」

彼は、わたしの両肩をつかみ、わたしを自分の方へ向かせた後、「ごめん」と言ってわざとらしく深々と頭を下げた。

「もう・・・、いいよぉ・・・、恥ずかしいから」

わたしは、彼を置いて、先の方へ進んだ。

神社を出るときとは逆に、彼はあわてて追いかけてきて、わたしが着ているセーターのそでをつかみ、横に並んだ。

彼の異変に気付いて

遊園地に入り、わたしは真っ先に、すごい歓声が聞こえるジェットコースターの方を見た。

わたしもジェットコースターに乗ろうかなと思ったが、自分が子どもの頃に見たものと違って、ジェットコースターが小さく見えた。

待っている列には、子どもたちが多く、ちょっぴりお姉さんのわたしは、遠慮することにした。

 

わたしたちは、観覧かんらんしゃに乗ることにした。

係員の人がドアをあけてくれて、「どうぞ」と言った。

わたしたちは、左右の座席に分かれてゴンドラに乗り込んだ。

ゴンドラがのぼり始めたとたん、彼が言った。

「そっち、座っていい?」

 

「えっ?」と思ったが、わたしは、「うん」と外の景色を見ながら返事をした。

彼は、すぐにわたしのそばに座り、肩をくっつけてきた。

わたしは、再び「えっ?」と思ったが、そのままの体勢でいた。

バイクに乗るときは、二人ともバイクのシートの上でぴったりと体をくっつけ合っているのに、今日はなんだか違う感じがした。

 

ゴンドラが4分の1ほど回転したとき、わたしは、彼の異変いへんに気付いた。

「海が見えてきたよ」というわたしの問いかけに、

「・・・」

彼の反応がない。

 

わたしが彼の方を向くと、かれは、下を向いて、さっきよりももっと体をくっつけてきた。

わたしは、またまた「えっ?」と思ったが、彼の次の言葉を聞いて、意味がわかった。

 

「・・・ごめん。・・・だめ。・・・りたい」

 

1周回ったゴンドラから、半分気を失いかけている彼を降ろし、近くのベンチに座った。

彼は顔色が真っ青だった。

「最初から、言ってくれれば、乗らなかったのに」

わたしは、言った。

彼は、高い所が苦手だと言い出せなかったらしい。

「せっかく初詣を楽しみにして、・・・場所も選んでくれて、・・・悪いなあって・・・」

彼が小さな声で言った。

二人で一緒にいる「今日」

「ソフトクリーム食べたら帰ろうか?」

まるで、子どもに言い聞かせるように彼の顔をのぞきこんで、わたしは言った。

彼は小さくうなずいた。

 

わたしが、ソフトクリームを2つ持って、ベンチに帰ってくると、いつもの顔色に戻った彼が言った。

「二人とも、願い事、叶うといいね」

 

帰りのバスはすいていて、私たちは一番後ろの広い席に座った。

しばらく二人とも黙っていたが、やがて、彼がわたしの肩に頭をのせて眠り始めた。

ソフトクリームの香りがした。

そうしているうちに、わたしも眠ったらしい。

 

バスが止まったあとも、わたしたちは眠っていたのだろう。

目をあけると、目の前に運転手さんがいて、にっこり笑って言った。

「そろそろ降りてもらわないと、次があるんだけど・・・。もうおしまい」

寝起きだったせいか、わたしは、「おしまい」の意味がわからなかった。

 

バスは、終点に着いていた。

「あなたたち、きょうだい?」

運転手さんが尋ねた。

わたしが「いいえ」と言うと、

「眠っているときの顔、そっくりだったよ」

と運転手さんが言った。

 

わたしたちは、運転手さんにお礼を言い、バス賃を払ってバスを降りた。

そして、今度は、自宅へ引き返すバスが止まるバス停へと歩いた。

二人で一緒にいる「今日」が終わろうとしていた。

 

※ この物語は、フィクションです。