豊島2冠が挑戦者に ~ 将棋 / 名人戦・2018年度A級順位戦結果
豊島2冠、そのままゴールへ
A級在籍2年目での挑戦
2019年3月1日、将棋名人戦・順位戦A級の最終一斉対局が行われた。
結果は、7勝1敗でトップを走っていた豊島将之2冠(王位・棋聖)が、最終局の久保利明九段戦を制し、年間成績8勝1敗で名人への挑戦権を獲得した。
久保九段との対局の終局時刻は、日付が変わった3月2日の午前0時20分過ぎだった。
この対局の勝敗によっては、「挑戦者決定プレーオフ」の可能性もあったので、夜戦にもかかわらず、「インターネットの将棋中継」は多数の視聴者でにぎわっていたが、結局、豊島2冠がトップをキープしたままゴールした。
豊島2冠にとって、A級在籍2年目で、初の名人位への挑戦である。
あえてプレーオフにふれるのは
昨年度のことがよみがえる
もし、豊島2冠が、久保九段との対局に敗れたりすると、この日の対局に勝利した羽生善冶九段(年間成績7勝2敗)とのプレーオフになっていた。
なぜ、ここであえてプレーオフのことに触れるかというと、昨年度(2017年度)A級では、前代未聞の成績同率者「6人によるプレーオフ」が行われたからである。
(※ 以下、昨年度のことに関する棋士の呼称については、2018年3月当時の段位、タイトルホルダー名を使用します)
昨年度、最終局直前の想定
昨年度のA級は11人でリーグ戦を行っていたので、1人の対局数は10局。
最終局前までの成績は、A級9位の久保王将、A級10位の豊島八段がともにトップで6勝3敗。
この2人の最終局の結果しだいで次のようなことが想定されていた。
① 2人とも勝てば、7勝3敗同士のプレーオフ(久保・豊島戦)で勝った方が名人挑戦者に決定。
② どちらか一方が勝ったら、その人が7勝3敗で名人挑戦者に決定。
③ もしも、2人とも負けた場合は、6勝4敗の成績者によるプレーオフで名人挑戦者を決定。
6勝4敗の成績者によるプレーオフ確定
結果は、最終局(2018年3月2日)に2人とも敗れてしまい、「A級順位戦をトップでゴールする絶好のチャンス(名人挑戦権獲得、または2人によるプレーオフ)」を逃してしまう。
6勝4敗で、すでに日程を終了していたA級2位の羽生竜王は自動的にプレーオフへの進出決定。
最終局前まで、5勝4敗だったA級4位の広瀬八段は、最終局で豊島八段との直接対決に勝ち、6勝4敗となってプレーオフへの進出決定。
まさかの「6人でのプレーオフ」へ
しかし、最終成績が6勝4敗でよければ、あと2人プレーオフ進出の権利を持っている棋士がいた。
A級1位の稲葉陽八段と、A級8位の佐藤康光九段が、ともにこの日の対局に勝ち、6勝4敗になっていたのだ。
これでとうとう、「6人によるプレーオフ」で名人挑戦者を決めるということになった。
底力に感動させてもらう
プレーオフの結果は
第76期名人戦の日程はすでに決まっている。(第1局は2018年4月11日~12日に行われた)
さっそく、順位下位者からの「パラマス方式のトーナメント戦」が始まった。
(<図1>参照)
将棋連盟の対局日程のやりくりも大変だったのだろう、最終局が行われたわずか2日後の3月4日にプレーオフ1回戦が行われた。
そして、プレーオフは、トーナメント最終局に勝った羽生竜王が挑戦権を獲得して終了した。
<図1> 第76期A級順位戦プレーオフ(2018年3月)
ネット中継を見て驚く
だいたい月1局のペースで1年間かけて進行する順位戦。
持ち時間は各6時間なので、夜戦に突入することは当たり前の棋戦である。
3月4日夜、わたしはネットの将棋中継を見て驚いた。
中継を通じて、豊島八段の姿が見えたので、3月2日の順位戦の再放送かと思いきや、何と「プレーオフ」のライブ中継だったのだ。
いつものように感動させてもらう
2日前に順位戦を戦い、肉体的にも、精神的にも疲れているはずだ。
プレーオフ1回戦で対局している久保王将と豊島八段の体力と気力に、ただただ感服するのみ。
順位下位者にとっては、過酷な「パラマス方式のトーナメント戦」。
わたしは、2人がどんな思いで対局をしているのか想像するのを止め、いつものように「感動させてもらえばいい」と思った。
過密日程の中で
この2人は、第67期王将戦(久保王将対豊島八段戦、結果は久保王将が4勝2敗で防衛)も同時進行中だったので、本当に大変だったことだろう。
プレーオフ1回戦の結果は、豊島八段の勝ち。
<図1>でご覧いただいたように、この後、豊島八段の快進撃は続く。
夜、ネットの将棋中継を見ると、ほとんど豊島八段が対局しているという日が続いた。
豊島八段の3月の対局記録を見ると、持ち時間各6時間の順位戦を月5局、2日制のタイトル戦である王将戦を2局指している。
(<図2>参照)
夜戦続きの過密日程の中で勝ち続ける豊島八段を見て、ただ単に「将棋の実力」だけでなく、体力や気力(精神力)もあわせ持つ豊島八段の底力に本当に感動させてもらった。
<図2> 豊島八段(当時)の2018年3月対局記録
楽しみな名人戦
プレーオフ敗戦後の勝利がタイトルへ
プレーオフの4回戦で羽生竜王に敗れ、第76期名人戦挑戦への道は閉ざされた豊島八段。
3月のその後の対局(2局)を勝って、2017年度を終了した。
しかし、プレーオフ敗戦後に勝った2局は、その後の豊島八段と不思議な縁で結ばれることになる。
そのときに勝ったどちらの棋戦(棋聖戦、王位戦)も、挑戦者決定戦へ進み、その挑戦者決定戦に勝ち、しかもタイトル戦も勝ったのだ。
ほぼ同期の2人の対局
ここから、今期の名人戦の話題に入る。
名人は、2006年10月1日付、18才でプロ入りした佐藤天彦名人。
(1988年1月18日生)
挑戦者は、2007年4月1日付、16才でプロ入りした豊島2冠。
(1990年4月30日生)
ほぼ同時期にプロ入りした2人は、新人王戦では番勝負も戦った。
また、他の棋戦でも、節目節目で対局している。
その2人が今度は名人戦を舞台にして戦う。
今期名人戦は4月10日から
第77期名人戦は、4月10日(水)~11日(木)に東京で行われる第1局を皮切りに、各地を転戦して行われる。
名人戦は、2日制、棋戦最長の「持ち時間各9時間」の棋戦だ。
名人4連覇がかかる佐藤名人が防衛するのか、「2年がかり」で掴んだ名人挑戦のチャンスを生かして豊島2冠が新名人になるのか、今期も名人戦が楽しみである。