星のきれいな島で【4】青春“ふきのとうの日”編 (ボクとボクらの話)
前回はこんな話で終わった
「ねえ、この子、さっきまで泣いてたんだよ」
わたしが制止するのも聞かず、みっちゃんは突然、わたしのことを話し始めた。
みっちゃんは言った。
「だいじょうぶ!この人はちゃんと受け止めてくれるから!」
そして、話し終わると、「用事があるから先に帰るね」と言い残し、みっちゃんは、静かに部屋の外に出て行った。
声を詰まらせた彼
みっちゃんが話している間、ずっと下を向いていたわたし。
ギターを抱え、ずっと黙ってみっちゃんの話を聞いていた彼。
しばらくして、彼が、急に足を組みかえ、正座になった。
そして、まるで本物のコンサートの最後のようにこう切り出した。
「とうとう、今日の最後の曲となりました。人には、色んな思いがあって、家族のことを思うと、ときどき切なくなることもあって、いなくなると寂しいもので、みんなそれぞれ・・・」
そこで、彼は、突然声を詰まらせた。
「今日の最後の曲」
彼は、涙をこらえながら、こう続けた。
「今日のことを・・・ずっと覚えていたい・・・と思います。いつまでも・・・覚えていたいと思います。聞いてください。『水色の木もれ陽』(みずいろのこもれび)」
彼は、ふきのとうの「水色の木もれ陽」を「今日の最後の曲」として歌った。
声は、いつもの声に戻っていたが、夜も遅くなり、ささやくような声で歌った。
「水色の木もれ陽」のサビの歌詞、
「あなたが好きです。いつものあなたが好き・・・」。
彼の声を聞いたとたん、下を向いていたわたしの目から、まっ直ぐに涙がこぼれ落ちた。
涙を流した後、いつかのコンパのときのように、わたしの心は少しずつ温かくなっていった。
黙って歩いてくれた
最後の1曲を歌い終わった彼は、ギターを壁に立てかけ、「帰ろうか」と言って、わたしに靴を履くよう促した。
わたしは、言われた通り、靴を履き、先にドアの外へ出た。
ほどけかけていた靴ひもが少し気になった。
後から外へ出てきた彼は、ドアのカギを閉めると、黙って大通りへ向かって歩き始めた。
わたしは、靴ひもを締め直し、小走りに彼を追いかけた。
わたしが彼に追いつくと、わたしたちは、どちらからともなく手をつないだ。
彼の手は本当に温かく、何か話すと涙がこぼれそうで、わたしは黙って歩いた。
彼も、わたしが進む方向へ黙って歩いてくれた。
わたしもずっと
遠い所から入学して来た彼と違い、地元のわたしは、実家から学校へ通っていた。
デートらしきことをするときは、現地集合、現地解散だったので、今日初めて、実家へ続く道路の入り口まで彼を連れてきた。
わたしが「ここで」と言うと、彼は「じゃあ」と言って、つないでいた手を放した。
彼は、今来た道を引き返して行った。
わたしは、彼の背中に向かって小さく手を振った。
そして、「わたしも、今日のことを、ずっと覚えていたいと思います」と小さな声で言った。
ふきのとうの日に
翌日、わたしから、昨夜の出来事を聞いたみっちゃんは、珍しく黙っていた。
彼女が黙っていると、不安になる。
わたしは、「彼、また会ってくれるかなあ」と言ったが、みっちゃんはそれには答えず、こう言った。
「よし!11月8日はふきのとうの日に変更だ!」
みっちゃんは昨日と同じように、目に涙をいっぱいためていた。
※この物語は、フィクションです。