繰り下がりの教え方 ~ 基本は今でも変わらない(ボクとボクらの話)

小学校の算数では、「繰り下がりのある引き算が苦手だ」という子どもたちが多い。

ここでは、先生のOB会で伝え聞いた「遠い昔の教え方」を紹介する。

豪快な山口先生らしい教え方

カードでトレーニング

久しぶりに退職者の会に参加した。

先生のOB会らしく、話題は、算数の「繰り下がり計算」の教え方へ。

現役時代、「グッちゃん」と呼ばれていた山口先生はズバリ言った。

「あんなものは、カード!」

グッちゃんは、小学校低学年を受け持ったときは、常に計算カード(繰り上がり、繰り下がり、九九など)を持ち歩き、授業の最初の5分間は計算のトレーニングにあてていたらしい。

45枚のカードを使用

繰り下がりのある引き算のカードは、10からの引き算が9枚、11からが8枚、12からが7枚と続き、最後の「18-9」の1枚を合わせて合計45枚のカードを使用する。

最初の1週間は、10-9、10-8、・・・、11-9、11-8、・・・、12-9・・・と順序通りにカードを示して、子どもたちは答えを言う。

この順番にカードを提示すると、1ずつ答えが増えていくので、子どもたちは答えやすいとのこと。

10からの引き算がポイント

その後は、10からの引き算のカードをランダムに提示する。

つまり「10-〇」のカード。

ここがポイントらしい。

ここは、5分と言わず、もっと時間をかけて答えを覚えさせたそうだ。

反射的に答えが出るまでがんばったらしいが、本当にがんばったのは子どもたちの方だと思う。

「つかみ」が出ると最高

そして、次は11からの引き算をランダムに提示。

子どもたちの中から、「10からの引き算の答えに1を足すと答えが出るよ」といういわゆる「つかみ」(自分なりに答えにたどりつくヒントやコツをつかむこと)が出ると最高。

あとは、ホイホイホイ。

「1カ月もすれば、覚えるようになる」

この人は、雑にやっているように見えて、きちんと「引いてから足す」という繰り下がりのある引き算の「減加法」の極意をつかませている。

坂本教授の教え方

「教授」の方法は

次は、「教授」とよばれていた坂本先生。

名前の由来は、当然、ミュージシャンの坂本龍一さん。

教授は、言った。

「わたしは、背比せいくらべだったよ」

違いを比べることだけが引き算ではないが、そこに特化して教えていたとのこと。

この人も10から

この人も、10からの引き算からスタートする。

黒板にマグネット付きの10個のブロック(以前は、数学教育協議会の開発したタイルだったらしい。だから5は、5個のブロックをテープでくっつけて、1つのかたまりとして表示)を縦に並べて置く。

その右隣へ8個のブロックを縦に並べて置く。(図1参照)

視覚的にすきまを見る

子どもたちは、2つの数の背比べをし、視覚的にその差を2と認識する。

そして、こうとなえる。

「10引く8、すきまが2、答えは2」

ここでの「すきま」とは、10との差(補数)のこと。

OB会に参加していた他の先生から「すきまという表現がいい」と言われ、教授思わず微笑む。

10からの引き算が終わったら、グッちゃんと同じでカード化。

じゃあ、10以上のときは

「じゃあ、14-8とかは、子どもたちはどう唱えるの?」というわたしの質問に、教授はこう答えた。

下の図2のように、14個のブロックと8個のブロックを縦に並べたカードを見せながら、背比べをさせる。

そして、こう唱える。

「14引く8、すきまが2、飛び出し4、答えは6」

14は、「10から4個飛び出している数」と、これまた視覚に訴えかける。

背比べという設定なので、「飛び出し」という表現がしっくりくるらしい。

唱え方は、以前は「すきまが4、飛び出し2、合わせて6」としていたが、「引き算なのにどうして合わせるの?」と子どもたちから言われ、唱え方を変えたそうだ。

式の書き方もうまくいく

教授は、この方法のいいところは、「式に8-14と書かないこと」と言った。

子どもたちは、「違いを求める」文章問題のとき、先に出てきた数をそのまま式に書くことがある。

頭の中では、しっかりと引き算になっているが、式の書き方をまちがってしまう。
(答えは合っている)

ところが、この方法で勉強した子は、偶然かもしれないが、引き算の式では、左側に大きい方の数をかく。

つまり、大きい方から小さい方を引く。

わたしたちは、「中学校に入ったとき、マイナスの計算が出たらどうするの?」と、意地悪な質問をした。

しかし、教授は、「そのときは子どもたちも成長しているから大丈夫」とちっとも動じなかった。

一同、教授の期待通りに子どもたちが成長していることを望む。

みんな、「何かやってたんだ」

やっぱり、昔話ですか

今のように、教材作りにパソコンが使えなかった時代。

手書きのカード作りはとても大変で、1度作ったら大事にとっておいたという2人の思いは共通だった。

ここまで話した後、話題は、それぞれの家で誰が家事をしているかに移り、算数の話はここまで。

でも、この2人、実践報告会などでは、下を向いていて、「わたし、何もやっていません」という人たちだったのに、いろいろ工夫していたんですねえ。

機械的に繰り返すことで答えのヒントをつかませたり、答えに行きつくまでを呪文のように唱えさせたり・・・。

でも、こんな方法、やっぱり、「昔、昔のことじゃった」という話ですかねえ?

ちょっぴり「補足」を

この話、少し補足させてください。

どちらの取組とりくみも、数を10の補数(いくつ足すと10になるか、10よりいくつ少ない数か)の側面からしっかりとらえさせて、学習を始めています。

しかも、そこまでに、10未満の数の合成や分解をみっちりやっていたとのことでした。

以上、言い訳のような補足でした。

 

 

※この物語は、フィクションです。