ボクの“うつ”体験 ⑥ ~ 気持ちに寄り添うことで

職場に復帰したわたし

相性がよかった新しい仕事

3月末に職場に復帰したわたしは、4月になり役職からはずれ、仕事の内容も変わった。

前の仕事に戻ってもらうための力をためる期間として、この1年間は新しい仕事をがんばってほしい、と職場の上司に言われた。

他の仕事と同じように責任のある仕事には違いないが、1つのことに特化されたこの仕事は、「とことん追求型でしょう」のわたしと相性あいしょうのいい仕事だった。

いい仕事と出会い、無事退職

また、職場全体の仕事の方は、時間をかけてていねいにできる仕事だったため、ストレスをあまり感じないで仕事ができた。

心療内科への通院も続けていたわたしだが、これらの仕事を始めてから、「気分が悪くなったときに飲む薬」を使用することもほとんどなくなった。

1年後、職場の上司に対して、次年度の仕事にこれらの仕事を希望した。

わたしの体のことを考え、判断してくださった結果だと思うが、この後3年間わたしは、これらの仕事を続けさせていただき、無事退職することができた。

この病気を体験して

今も通院中

さて、わたしは、退職後も、心療内科への通院を続けている。

年齢とともに、薬に、血圧を安定させる薬が加わったが、「うつ状態」の改善に関する薬の分量は大きく減った。

精神的なダメージを受けるような出来事に出くわしたときは、当然気分が落ち込むこともあった。

そんなときは、「これ以上考え込むと、前のように自分で自分を苦しめることになるぞ」と自分に言い聞かせることで、体調を崩すことも少なくなった。

病院 ― 信頼できる場所

発病、入院、自宅療養などの経験により、かなり、自分の気持ちをコントロールできるようになったと思う。

それは、わたしにとって、病院が信頼できる場所だったことが大きい。

気分が悪く、病院にやっとの思いで行ったのに、診察を受けるまでの間、待合室で眠っていて、名前を呼ばれたことに気づかないこともあった。

それぐらい病院は安心できる場所であった。

「うつ状態」の人と接するとき

職場に復帰したとき、「今回の病気は、わたしが、自分で勝手にころんだような病気です。みなさんは、今まで通り普通にわたしと付き合ってください」と言った。

わたしへの接し方が難しいだろうと思い、自分からそう言った。

「まるでれ物にさわるように接する必要もありません。根性をきたえ直してやると厳しくする必要もありません」とわたしが付け加えると、みんな笑って、わたしの復帰を受け入れてくれた。

ある日、突然仕事を休み、こんな形で復帰する自分自身のことを「身勝手」と思われても仕方がない。

今、自分にできることは、自分の体調と相談しながら、再びまわりに迷惑をかけないよう仕事を続けることだと割り切って考えた。

自然なふるまい

わたしの場合は、恵まれていた方かもしれない。

もし、同じような病気で悩んでいる人がいたら、自然に接してほしいと思っている。

わたしは、「元気に見えるときは一緒に楽しんでくれればいいし、落ち込んでいるときはそっとしておいてくれればいい」と思っていた。

一見、わがままに見えるわたしの思いに対して、同僚が「自然にふるまってくれている」と感じたとき、わたしは、本当にありがたいなあと思っていた。

「うつ」という病気との付き合い

世間の見方もかわってきた

今は冬、1年で1番体調不良を起こしやすい季節だ。

「冬」=「寒さで自分の体を苦しめる季節」とインプットされているため、どうしても苦手意識がある。

だから、春になると、そこから解放されて、ふわっとした気持ちになる。

「うつ状態」と言われて20数年。

この病気は、誰もがかかり得る病気だと認知され、病気に対する世間の見方も変わってきた。

病気になった人へは

家族や知人に「うつ状態」だと思われる人がいたら、まず、その人の気持ちに寄り添ってほしいと思う。

自分の体験だが、「今の自分がそのまま受け入れられている」と感じると、自分の気持ちがずいぶん楽になった。

それは、どんな励ましの言葉よりもありがたいものだった。

「どうして自分がこの病気に?」という思いがあるうちは、どんな助言も、本人が納得しない限り心の中へは入っていかなかった。

また、自分でこの状態から抜け出そうと、「必要以上に自分を鼓舞こぶすること」も逆効果だった。

これらは、すべて自分の体験だが、「もがけばもがくほど、つまり、この病気に対する嫌悪感を抱けば抱くほど」、体調はどんどん悪くなっていった。

病気と付き合う

この病気のほう愛想あいそをつかしてどこかへ逃げて行くまで、わたしはこの病気と付き合い続けていきたいと思っている。

それくらいの気持ちを持っていないと、この病気は、いつでも、どこでも、自分を苦しみに導きかねない。

体に負担がかかるような無理をして、体調を崩したときなどは、「わたしが悪うございました」と病気に頭を下げるくらいの方がよい。

すると、体調の回復も早くなる。

 

以上、自分の「うつ」体験について書いてきた。

同じようなことで悩んでいらっしゃる方のお役にたてれば幸いである。